letter

インスタレーション
2017年

こちらの大量のお手紙が、「letter」という作品です。本のページを一部残しながら塗り潰したものを封筒の中に入れています。本というのは、いくつかの戯曲で、ここに書かれているものは声として音になることが前提となっている言葉たちです。また、古くから声として演劇として舞台の上で役者によって発音され続けたからこそ、こうやって文字として残っていると言えます。言い方を変えれば、文字として記録されることで音声として生き続けているとも言えます。「letter」というのは「手紙」という意味でもありますが、「文字」という意味としてもタイトルにしています。

 

封筒という存在がおもしろいなと思うのは、封筒は手紙そのものではないのに、封筒を見れば「手紙」が思い浮かんでしまうという点です。メールの絵文字にもありますが、「手紙」の記号としても封筒が用いられます。封筒を開けさえしなければ、もし中に何も入っていなかったとしても、それは「手紙」に見えてしまいます。

 

すこし話は逸れますが、本の間に手紙が挟まっていることってありますよね。古本にメモが挟まっていたりするように。本の間に手紙を見つけたことがある人と見つけたことがない人がいると思いますが、わたしは見つけたことがあったんです。父親の本に父親宛の手紙が挟まっていたのを見つけたことがあって、もともと手紙と本というのは、個人的に馴染み深いものがありました。それで今回の『letter』という作品は、”本に手紙が挟まっている”という状況を歪めて、”封筒の中に本を入れて手紙にする”という構造で作品をつくりました。この行為自体がまるごと全部、言葉遊びのようなものだとも考えています。

(2017年4月9日、個展「話せることの使命」内でおこなわれたトークイベントでの作品解説)